知らないと怖い。競馬の「ヤリ・ヤラズ」

ヤリ・ヤラズは競馬界の闇

昔から、競馬の世界には「ヤリ」と「ヤラズ」という言葉があります。これは業界内の隠語であり、一般の競馬ファンには縁がないワードです。

すし屋の丁符に、「あがり」や「おあいそ」などがありますが、これとは全く違った方向の言葉です。

「ヤリ」と「ヤラズ」はネガティブな言葉であり、表向きは存在しない言葉です。

なぜなら、

八百長を指す言葉だからです

このページをご覧になっている方は、どこかで「ヤリ・ヤラズ」という単語を耳にして、このページにたどり着いたことでしょう。結論から言いますと、八百長の隠語を「ヤリ・ヤラズ」といいます。

さて、競馬の世界に本当に八百長が存在するのか?

まず、このことを疑問に思われる方もいると思いますが、八百長は存在します。

確かに、競馬は競走馬という動物が走る競技ですが、馬の背中には必ず「騎手」が乗り、「調教師」という馬の管理責任者から作戦を伝えられます。つまり、競馬は馬が好き勝手に走る競技ではなく、必ず「人間の意志」が介在しています。

人間の意思が介在するうえ、金銭が絡むとなると、不正に利益を得たいと考える人は必ずいます。もともと競走馬は経済動物といわれており、犬や猫と異なり、どの段階においても金銭が動いています。「コスト」と「リターン」という利害が存在します。

そのため、コストを回収するために、ある種の八百長=デキレースがあっても何ら不思議ではありません。

人間の意志といっても、調教師が勝率を上げるため、馬の特性を生かすために作戦指示を出すことは、何ら違法性のない行為です。

問題は意図的に負ける「ヤラズ」という行為が存在することです。

「ヤリ・ヤラズ」を簡単にまとめると…

ヤリとは?

競走馬の実力を発揮させ、勝たせること。ただし、これは通常の意味合いとは異なり、複数の騎手・調教師と結託し、特定の馬を意図的に勝たせることを指します。多くの場合、人気薄の馬が大穴馬券を演出するときに、「ヤリ」が実現します。

ヤラズとは?

ある程度の人気を背負った馬をわざと負けさせること。このやり方は複数あるので、のちほど手口を説明します。ただ、レース中に馬の手ごたえがなくなって、意図的に追うのをやめるという場合もあります。明らかに故障していない場合に、レースをやめる行為は審議対象になり、場合によっては騎手に制裁が加わります。こういうケースは「ヤラズ」にはふくめません。

ヤリ・ヤラズを事前に知る事はできるか?

「ヤリ・ヤラズ」が八百長を指す言葉なら、これを事前に知る事が出来れば、馬券を買う側にも大きなメリットがあります。しかし、結論から言えば、事前に「ヤリ・ヤラズ」を察知することはできません。

八百長が存在することを公に認めるのは、主催者の公正さを疑われ、競馬自体の衰退を招きます。そのため主催者が認めることはありません。日本中央競馬会(JRA)では特にこの手の話は出にくいと思いますが、地方競馬を見ると、意外に「八百長」というキーワードがでてきます。

地方で八百長が多いといわれているのは「笠松競馬」や「金沢競馬」ですが、探せば他にも出てきます。地方競馬に八百長が多いのは、レース自体の売り上げ規模も低く、賞金も少ないからです。馬主資格を取るのも中央競馬に比べるとだいぶ緩いので、八百長を仕掛けたい勢力が入りやすいこともあると思われます。

競馬の場合、ゲートが開く前に、馬体に異常があれば「出走取消」や「競走除外」になり、その馬の馬券は返還になります。しかし、ゲートが開いてしまえば、レースは成立し、購入馬券の返還は行われません。オッズはほぼ確定します。

レースが始まるまでその気配を知るのはまず無理です。「ヤリ・ヤラズ」を事前に知っているのは、関係者のみです。

しかし、関係者以外に「ヤリ・ヤラズ」を見つける方法がひとつだけあります。それは…

オッズの動向を観察すること

なぜ八百長が行われるのか?

この先の話をするために、まずここでの八百長の意味を述べておきます。

ここでいう「八百長」とは、すべての出走馬がなんのしがらみもなく、馬の全力、騎手の持てる技術を発揮して全力を出し切る事とは正反対に、何らかの意図・意思をもって競走馬の着順を操作することを指します。

つまり、馬券購入側からすると、そのレースで全力を出してくる前提で予想をして馬券を買いますが、それとは異なる立場・視点で競走馬を導いていると解釈してください。

次に、勝ちにいかない「ヤラズ」を八百長の観点から考察してみます。勝てるレースをわざと勝たない、着外にするのはどのような理由があるでしょうか?

1.目標レースへの調整

オープン馬の場合、本当に目標としているレースがある場合、当該レースで全力を出し切らず、次走のために余力を残したい場合があります。もちろん、相手が弱く、一切追わずに楽勝というパターンもありますが、そのようなケースは多くありません。

本番レース前に疲れを残すことを嫌い、追っているふりをしている場合もあります。

このケースは調教師にとって作戦といえますが、馬券を買っている側からは本気で追っていない理由はわかりません。

2.クラス条件の調整

1000万条件(2勝)の馬が、年間獲得賞金が不足して500万条件(1勝)に降級する制度がありました(2020年に降級制度は廃止)。

降級制度があった時代は、本来の実力より下の階級で賞金を稼ぎ、昇級したらまた降級するという作戦をとった馬もいました。どの馬もオープンクラスに上がれるわけではなく、条件馬のまま引退するケースのほうが多かったため、獲得賞金を稼ぐため、わざと勝ち上がらないという選択もあったのです。

ただし、降級制度が廃止されたため、この目的での「ヤラズ」は現在行われていません。

3.高配当馬券のため

人気サイドの馬が着外に沈むだけで、簡単に高配当がでます。オッズの割れる混戦レースではなく、1本かぶりのレースの場合、特定の馬に票が集中するため、その馬が飛ぶだけで万馬券が出ます。三連単を使えば、1番人気が3着になるだけでも配当が大きく変わります。

馬券での収益を目的として、「ヤラズ」が行われます。

もちろん、ヤラズを指示できるのは自厩舎の馬に限られますが、馬主はひとつの厩舎にだけ委託しているわけではないため、組織的に仕組まれている場合に成立します。

インサイダー視点のヤラズの例

追うふり

素人目にあからさまに手を抜いたように見えれば、レース後すぐに審議対象になりますので、実際に行われる「ヤラズ」はもっと巧妙です。

必死に馬を追っているように見えて、実際にはハミをかけずに手だけ動かす。

追う振り

馬は騎手と手綱を通じて意思疎通を図ります。この時、馬の口にきちんとハミがかかってないと、騎手からの指示が正しく伝わりません。ハミとは馬の頭にかぶせる馬装具で、金属製の金具が口の中に入っていて、力加減が馬に伝わる仕組みです。

馬群に埋もれさせる

どの距離のレースでも、4コーナーを立ち上がって、直線に向かいます。この時、馬がひしめく内埒沿いに突っ込ませ、伸び足を殺してしまう方法です。

このケースは、「馬群の前が開かなかった」と言い訳が効きやすいので、よく使われます。

また、1着ではなく、3着に落としたい時などもこの手がよく使われます。実際に勝負気配の高い馬は、直線で他の馬に進路をふさがれないように外に持ち出しているケースが多いです。

意図的な落馬

競走馬にとって、人間の都合なんて関係ありません。いくら関係者から「ヤラズ」を指示されていても、馬がその気になっていては、指示通りの着順を狙えません。

そこで騎手が行う最終手段が、意図的に馬から飛び降りる「落馬」です。

業界用語では「降りる」というそうですが、明らかに事故があって落馬する場合と異なり、騎手が意図的に飛び降りるケースは「ヤラズ」に入ります。

ヤラズの落馬の場合は、騎手は十分に安全を確保したうえで飛び降りるので、落馬後も騎手は無傷なケースが多いです。

2002年 1番人気ノーリーズンの「降りる」

ヤリ・ヤラズをオッズで事前に見極める

「ヤラズ」はいろいろな意図や目的があるため、事前に見極めるのは非常に困難ですが、「ヤリ」の場合は、利益を目的としていることが多く、オッズを観察することで「ヤリ」の気配を察知することが可能です。

オッズはレース発売直後から、さまざまな人が馬券を買い、刻一刻と変化していきます。もちろん、オッズの大半は一般競馬ファンによる投票なので、競馬新聞の印など、多くの人が参考にする情報をもとに人気が決まります。

ほとんどの人は、オッズを自分が購入する馬券の払戻金の予測に利用しますが、別の視点で観察することで、おかしな売れ方をしている馬券を見つけることができます。

これを「異常投票」と呼び、異常投票によるオッズのことを「異常オッズ」と呼びます。

「ヤリ・ヤラズ」を前提として八百長を仕組む場合、当然その情報は馬券を購入しなければまったく価値を持ちません。しかし、馬券を購入すれば当然オッズに反映されます。

これが「異常オッズ」という形で表れます。

最初にも言いましたが、勝ちにいかない「ヤラズ」を事前に見極めるのは難しいですが、儲けが前提の「ヤリ」はその痕跡を「異常オッズ」として捉えることが可能です。

ただし、オッズは関係者以外の投票も反映されているため、どのように異常オッズを見極めるかがポイントになります。

競馬は不平等な競技

競馬はもともとギャンブルとしての要素が強いため、さまざまな不平等な要素があります。これは主催者であるJRAがもともと用意している仕組みでもあり、その結果、実力通りの着順にはならないのです。

スタートが横一線であったり、馬によって負担重量が異なっていたり。コースレイアウトで内外で有利不利が異なったり、内柵の移動で馬場の良いところ悪いところを作ったりと。枠順の抽選で馬の内外をコントロールしたり…。

G1レースでも、特定の馬を勝たせるために、さまざまな大がかりな仕掛けを利用していることもあります。

ヤラズの参考資料

ヤリ・ヤラズは都市伝説です。でも、さまざまな情報源をあたると、その痕跡はいくつも見えてきます。最後に、まだ閲覧可能な資料を紹介しておきます。

書籍「八百る騎手」 安田博康著

元地方競馬のリーディングジョッキーが書いた書籍です。2007年に東邦出版から出版された書籍で、安田騎手の現役時代の「ヤリ・ヤラズ」について書かれています。

この書籍の評価はふたつに分かれるでしょうね。競馬が常に公平であると考えてる人にとっては、嘘くさい本にしか思えないでしょう。

なお、今でもAmazonなどで中古本として入手可能です。ほぼ捨て値に近い値段なので、興味のある方は、お近くのブックオフなどを探してみてください。

エキシビションマッチにおける追う振り

第1回ジョッキーマスターズは、2007年4月に東京競馬場のスタンドの完成を記念して行われた「エキシビションレース」です。このレースは、引退した騎手を集めて行われたレースであり、馬券も販売されてないことからわかりやすい「ヤリ・ヤラズ」が行われたレースです。

このレースのVTRは、YouTubeにもあがっていますが、アップロードされている動画の解像度では、あきらかにハミがかかってないシーンが確認できませんでした。

なお、放送当時、グリーンチャンネルの生放送では、わかりやすいケースとして確認できました。